高地トレーニングの代替手段として低酸素トレーニングを行う時代は終わりました。低酸素トレーニングは高地トレーニングとは全く異なった効果を期待できます。
低酸素環境での軽運動は、血液酸素運搬能力の向上、血管新生の促進、炎症の抑制、持久力と筋力の維持・向上、回復のスピードアップ、および精神的な回復を含め、多くのメリットを提供します。
低酸素環境を効果的に活用することで、トレーニングの質を向上させ、次の試合に効率よく備えることができます。また、リハビリテーションが必要な選手にとっては、競技への早期復帰が期待できます。
【血流の増加と炎症の抑制】
低酸素環境で軽い運動を行うと、その後血管が拡張し血流が増加することが報告されています。*1 また、炎症反応を抑制する役割を果たす抗炎症性サイトカイン(例:IL-10)の生成が促進され、HIF-1αの活性化を引き起こし、これが炎症反応の調節に関与します。免疫系の適応も促進され、炎症反応を調整することが示されています。例えば、低酸素環境でのトレーニングが運動後の炎症マーカー(例:CRP、TNF-α)の低下を示す場合があります。*2
これにより、疲労の回復に役立つだけでなく、怪我の部位の炎症を減少させ、痛みや腫れの軽減に役立ちます
【酸素運搬能力の向上・血行の促進】
低酸素環境は血管新生(新しい血管の形成)を促進します。新しい毛細血管が形成されることで、損傷した組織への血流が増加し、栄養素や酸素の供給が改善され、回復が早まります。またエリスロポエチン(EPO)の分泌が促進され、赤血球の生成が増加します。赤血球が増えることで血液の酸素運搬能力が向上します。
【回復のスピードアップ】
低酸素環境は、細胞の再生を促進し、損傷した組織の修復を加速することが示されています。これにより、リハビリテーションの期間を短縮し、早期の復帰が可能になります。
◆具体的な研究例
青木らの研究(2013年)では、低酸素環境下でのリハビリテーションが、通常環境でのリハビリテーションと比較して、膝前十字靭帯(ACL)再建術後の筋力回復と機能改善に有意な効果を示したと報告されています。 クロフォードらの研究(2015年)では、低酸素トレーニングが運動後の炎症マーカーの減少に寄与し、筋肉損傷からの回復を早める可能性があることが示されています。*3
【持久力と筋力の維持・向上】
低酸素環境では、低負荷でも効率的に持久力と筋力を向上させることができます。
リハビリテーション中のアスリートにとって、低強度でのトレーニングでも高強度トレーニングに匹敵する効果が得れるため、負傷部位に過度のストレスをかけずに体力を維持・向上させることができます。
【精神的な効果】
低酸素環境でのトレーニングは、心理的な挑戦を伴います。これにより、アスリートはリハビリテーションの過程でのモチベーションを維持しやすくなります。
またエンドルフィンやセロトニンなどの神経伝達物質の分泌を促進することがあります。これにより、リハビリテーション中の選手の競技復帰への精神的なストレスを軽減し、不安症状の予防に寄与します。
【体組成と体重管理】
低酸素トレーニングは、脂肪燃焼を促進し、筋肉量を維持・増加させる効果があります。怪我により運動強度を維持できないアスリートにとって体調管理の強いアイテムとなり得ます。
*1: Wilber, R. L. (2007). Application of altitude/hypoxic training by elite athletes. Medicine & Science in Sports & Exercise, 39(9), 1613-1622. : Vogt, M., &Hoppeler, H. (2010). Is hypoxia training good for muscles and exercise performance? Progress in Cardiovascular Diseases, 52(6), 525-533.
*2Baumann, C. W., & Kwak, D. (2020). Impact of hypoxia on exercise-induced inflammation in skeletal muscle. Journal of Applied Physiology, 128(3), 743-753. :Trewin, A. J., Lundell, L. S., Perry, B. D., Patil, K. V., Chrzanowski-Smith, O. J., & Pouchy, C. A. (2018). The impact of exercise-induced hypoxia on metabolic health. Diabetologia, 61(9), 1920-1932. : Michailidis, Y., & Margaritelis, N. V. (2018). Anti-inflammatory effects of physical activity and exercise in humans. Redox Biology, 17, 285-295.
*3Aoki, H., et al. (2013). “Effect of hypoxic training on muscle strength and recovery after anterior cruciate ligament reconstruction.” Journal of Sports Science & Medicine, 12(4), 705-712. : Crawford, P., et al. (2015). “The influence of hypoxic exercise on muscle damage and inflammation.” European Journal of Applied Physiology, 115(9), 1779-1789.
石井隆行
株式会社アスリートネット湘南代表取締役
Hypoxic Training Systems 低酸素トレーニングシステムズ 管理者
1996年アトランタ五輪から5大会連続複数競技の日本代表選手のトレーナー。
「高地トレーニング」「低酸素室においてのトレーニング」に関して、当時の日本記録を保持する競泳選手のトレーナーをしていた2000年頃より研究を始める。
2017年に経営するトレーニングジム内に高地トレーニング専門スタジオをオープンさせるが、 国内の低酸素発生システムを取り扱う会社の方針に疑問を持ち、英国大手低酸素トレーニングセンターと提携を見据え協議を開始。
2020年、協議先センターが取り扱う低酸素発生装置の製造工場へ日本での独占販売契約を結ぶために渡航する予定の10日前、新型コロナウイルスの影響でフライトがキャンセル。訪れる予定の工場も一時閉鎖されてしまった。
この時点で海外製の低酸素発生装置の輸入販売から、純日本製の低酸素発生装置を製造することに方向転換。日本各地の数十社に企画を持ち込むも「技術的にできない」「安全性が心配」などの理由で断られ続けるなか、ようやく1社興味を持って頂く事ができた。そして試行錯誤を重ね、業務用Altitude Maxが完成。
その後、改良を重ね、他社の追随を許さない業務用低酸素発生器を完成させました。
現在でも、より安全で効率的な低酸素環境の構築システムを研究開発を続ける傍ら、多くの人へこの素晴らしい低酸素トレーニングの魅力を届けるために様々なメディアやSNSで発信中